REDのためのプリンシプル

 この1年をデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進、支援に費やしてきました。国、大企業、地方それぞれの領域のトランスフォーメーションに振り切ると決めたのは、この文章を書いたときでした。

 国の活動は政府CIO補佐官として、大企業と地方に関しては株式会社レッドジャーニーの活動として取り組んできました。十分な結果が出たと言うにはまだ尚早です。進んでいるところもあれば、まだまだなところもあります。この先、数年単位での取り組みになると捉えています。

 さて、私にとっての「DX」とは、それ自体が目的な訳ではありません。DXは、日本の各領域におけるREDesignを進めるための分かりやすい旗印にあたります。別の言い方をすると、これまでの環境を変えていくための機運、大義名分と言えます。ですから、私にとっての取り組むべき本質とは、先の文章にも書いているとおり「RED」になります。

 では、理念だけではなく、REDを進めていくために必要なこととは何でしょうか。この1年の終わりに、ようやくその言語化が出来てきました。RED(DX)のためのプリンシプル(原理原則)。それは現時点では6つあります。以下の6つです。

  • ジャーニー・スタイル
  • プロフェッショナルとしての矜持
  • 仮説検証による学びの最適化
  • エクスペリエンス・ファースト
  • 一人の人間のようなチーム
  • 自分から越境する

 端的な言葉として挙げています。実際には、「ジャーニー・スタイルで構想する」「プロフェッショナルとしての矜持をもって判断する」「エクスペリエンス・ファーストで考える」「一人の人間のようなチームを目指す」といったように何らかの行為を伴うものです。6つのプリンシプルは、目指すべき対象であり、実践行為での拠り所にもなるものと言えます。

 いずれも、私の日々の活動の中での経験則にあたります。あらゆる文脈に通じるものではないでしょう。一つの参考として捉えて頂ければと思います。

ジャーニー・スタイル

 RED(DX)とは半年や1年で成し遂げられるものではありません。むしろその程度の期間で出来ることとは一時しのぎであり、組織環境の変革までは到達していない段階でしょう。そもそもの方針として「段階的発展(stepwise)」を前提とする必要があります。ジャーニー・スタイルとは、段階的発展とほぼ同義と言ってよく、その実現のための取り組みにあたります。ジャーニー・スタイルの具体的な内容は「ともに考え、ともにつくる 〜リーン・ジャーニー・スタイル〜」や書籍「チーム・ジャーニー」にまとめています。

 RED(DX)を進めるにあたっては、どのくらいの期間で、どのような変化を起こすのかという設計(見立て)が必要になります。こうした見立てをすることなく進めていくことも勿論できますが、多くの関係者、複数のチームを巻き込んでいくには非常に分かりにくい状況になります。全体像とは、どのように進めていきたいかという意思であり、方向性です。その内容は勿論段階を進める毎にアップデートしていくものになります。こうした見立てが可視化されていなければ、全体としてまとまりよく進めていくことは難しく、結果にも結びつきにくくなります。

プロフェッショナルとしての矜持

 専門性が状況を突破し、前進させる原動力の一つとなることは疑いようもありません。組織に不足するケイパビリティを補う、外部の専門性や専門家を招き入れること。そうして、組織内部にも必要な専門性を養っていくことが、DXのジャーニーにおいて求められます。

 こうした専門性を外部から提供する側に、また組織内部で専門性を発揮していくチームにも、同じく宿しておきたいのが「プロフェッショナル(専門家)としての矜持」です。矜持なき専門家は、組織内での安易な取り組みや意思決定に迎合的になり、ただその技芸を消費するだけになりやすいものです。それでは期待する結果をもたらすことはできませんし、専門家として空しいだけです。どのような領域でも、プロフェッショナルとしての立ち位置を背負い、その矜持を持って対応すること、判断すること。逆に、こうしたスタンスを保とうとすることが、その専門性をさらに磨こうとする姿勢にも繋がることでしょう。

仮説検証による学びの最適化

 REDとは、これまでの前提や方法、環境を見直すことであり、誰にとっても正解の拠り所など置けない不確実性の高い取り組みと言えます。こうした状況の中で取れるアプローチとは、仮説立て、検証し、その学びから漸進していくことです。実際のところ、まだ日々の実践活動の中で、仮説検証を取り組めている組織は少ないのが現状と言えるでしょう。

 しかし、これまでの経験や前提にのみ基づいてDXを進めていこうとするのは、何の学習もせず闇雲に進めることと相違ありません。前に進むために必要な学びを得ること。全く学習することなく進めることも問題ありますが、逆に調査分析が過ぎ、「お勉強」することが目的になっている状況もまた、学習が最適化されているとは言えません。

 仮説検証に関する内容は書籍「正しいものを正しくつくる」にまとめています。

エクスペリエンス・ファースト

 最初は「顧客ファースト」や「ユーザーファースト」であることを挙げようと思いました。この原則の意味は、DXを進めていく上で切り口として何を第一と置くか、というものです。DXという活動のそもそもの動機、WHYとも言えるものです。ですから、顧客やユーザーファーストを挙げるのは至極もっともです。

 ですが、顧客やユーザーという言葉では解像度に不足があると感じました。事業開発やプロダクト作りでは、「顧客」「ユーザー」よりももっと研ぎ澄まされた観点が必要となります。それは顧客やユーザーの「状況」「モーメント」です。ぼんやりとユーザーを眺めることではなく、そのユーザーが置かれている環境、状況、刹那に目を向けること。ただ、「状況ファースト」ではやや言葉の意味が捉えづらいため、顧客やユーザーが置かれている環境・状況下で生じる「体験(エクスペリエンス)」を挙げることにしました。

 また、事業やプロダクトに取り組むにあたっては、次の原則の「チーム」や「関係者」の存在は欠かすことができません。そうした当事者たちがいきいきと活動できていること。劣悪な環境下で、辛うじてプロダクト作りを行っている、そんな状況下で良き結果を引き寄せられるとは考えられません。エクスペリエンスには、作り手たちの体験も含まれます。

一人の人間のようなチーム

 RED(DX)とは、難しい仕事です。プロダクト自体が複雑な成果物です。それを複数のメンバー、関係者、チームで認識と理解を合せながら、作り進めていく。まとまった結果を生むためには、協働が欠かせません。協働する「チーム」という概念は、RED(DX)においても必要不可欠です。チームの機能性を高めていくための取り組み、不断の努力には価値があります。そこに時間をかけることを惜しんでは何にもなりません。

 十分に機能性の高まったチームは、意思疎通も高度になり、チームとしての練度も高いレベルに達します。チームとは複数の独立した個で構成されるものですが、機能するチームとは集団でありながらまるで一人の人間のように動ける状態へと達します。個々人(身体における個々の機能)がそれぞれの持ち味を発揮しながら、それでいて全体としてのまとまりを宿している。チームで考えたことを即、チームとして動くことができる。それが目指したいチームのあり方です。

 一人の人間のようなチームは、書籍「チーム・ジャーニー」でも解説しています。

自分から越境する

 最後の原則だけ、ワードの提示ではなく行為が織り込まれています。自分から越境する。RED(DX)を進めていくにあたってのすべてのはじまりと言えるのが「越境」です。それまでの組織の前提や方針、考え方、役割を越えて、目的にむけて必要な行為を行う。それも「他の誰かが」ではなく、自分からです。他の誰かを待っているうちは、状況が進展することはほぼありません。越境が必要と気づいた最初の人間が、その一歩を踏むこと。一人の人間のようなチーム、それぞれがプロフェッショナルとしての矜持を持つメンバーが揃っているならば、きっと次に続く2人目が現れるはずです。

 以上の6つが、私が今考えるDX、そしてREDにあたって必要とする原則です。これから先のジャーニーにおいてもこの6つを、ともに取り組むチームや組織、その場所に宿るよう務めていく所存です。

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