アジャイルでは「度合い」をチューニングする

 アジャイルに踏み出していく際に、取り組み方のチューニングポイントとなるのが、「事前整備」と「反復活動」いずれによって仕事の状況を作っていくか、その「割合」にあると思っている。

 これまでの仕事の進め方で多いのは「事前整備への偏重」である。あらかじめ正解ルートが見越せる、事前整備によって見出すことができる、そうした領域では「事前整備」の重要性は極めて高くなる。

 一方、取り組み進める中で情報を得て、新たな発見と理解の重畳によって展開を切り開くような仕事、領域においては「反復活動」をどの程度織り込むかが要となる。

 両者を組み合わせると次のようなイメージが描ける。

 このライン上のどのあたりで取り組むか。ラインの領域によって指向性が異なる。

 3つほどに指向性を分けて、捉えることができる。
① 事前整備多、反復活動少 → ほぼ事前活動のみ、従前の取り決めをやり切るスタンス
② 事前整備少、反復活動多 → ほぼ事前整備無し、反復の積み上げで取り組むスタンス
③ 事前整備中、反復活動中 → 反復を支えるだけの事前整備、後は反復で適応する

 自分たちがこれから取り組む仕事、プロジェクトにおいて、どれが適しているかを判断し、適切に事前整備と反復活動の割合をチューニングする必要がある。

 例えば、新たな顧客獲得に向けた施策を講じるような場合、まずどのような顧客を想定するのか、その定義から始めるだろう。その際、事業戦略やこれまでのマーケティング戦略など既定の方針を棚卸して、「新たな顧客」の中身を決める。そして、「新たな顧客」がどのような課題やニーズに対して感度が高いのか、踏まえて、何をどこで訴求していけば良いのか、仮説を立てる。ここまでは「事前整備」の範疇になる。

 定義ができたので、一気に施策を打っていくかというと、その前に立てた仮説の検証を先立たせる必要がある。仮説検証はまさに「反復活動」にあたる。検証結果によって、その次の判断が変わる可能性あがるからだ。結果によっては、「新たな顧客」の定義自体を変える必要があるかもしれないし、想定通りの施策を打てば良いという判断ができるかもしれない。結果に応じて、どのくらい反復を行うのか変わっていく。

 この例の場合、
① 事前整備多、反復活動少 → 「施策の決め打ち」
② 事前整備少、反復活動多 → 「手当たり次第に試行錯誤を行う」
③ 事前整備中、反復活動中 → 「仮説を立てて、検証し、然る後に施策を打つ」
といった違いになる。

 さて、問題は、多くの組織が「①事前整備多、反復活動少」のメンタリティが優勢な状況下で、いかに「③事前整備中、反復活動中」を選択肢として取れるようにするかである。手当ては3つほど考えられる。

(1) 不安の解消
(2) 探索指向の目的設定
(3) 成果の実感を得る

 「不安の解消」の不安とは、ゴールまできっちりたどり着けるかどうか分からないような進め方を取ることへの恐れである。これまで事前整備偏重型の仕事に慣れてきた人たちにとっては、あてもなく彷徨うように思えるだろう。こうした不安を解消するために、組織としてのオーサライズや、トップやミドルマネジメントからのエンドースメント(承認・後押し)が求められる。

 「探索指向の目的設定」は、そもそも仕事やプロジェクトとしての狙いに「探索的に行う」のを織り込むことである。プロジェクトのテーマや領域に、誰かが答えを持っているとみなせるものではなく、探索が必要となるものを選ぶ。先の例にように「新たな顧客」獲得、「新たな課題」の設定、これまでの実現方法の改良、刷新など、「これまで」から離れていくテーマは、概ね探索が必要となる。

 「成果の実感を得る」は、反復活動に対する自己効力感を得られるようにする、ということだ。組織からエンドースがあって、目的自体を探索指向としながらも、取り組み進める過程で「手応え」が無ければ迷いが生まれる。反復ごとに(あるいは別の一定の期間ごとに)、活動をふりかえり、その時点で得られている成果を自分たち自身で感じ取る時間を作る。成果は、目的に対応する結果そのものであり、気づきや学び、成長の軌跡もあてはまる。

 「事前整備」と「反復活動」の度合いの設計と実践におけるさらなるチューニング。取り組み方、進め方のメタ的な判断も、アジャイルに行う。

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