右手に「正しいものを正しくつくる」、左手に「組織を芯からアジャイルにする」

 2020年のコロナ禍とともに、私の新たなジャーニーはスタートを切った。「アジャイル開発」を前提とした活動から、より広い意味での「アジャイル」を、伝え広げる活動へ。世の中は折しもデジタルトランスフォーメーション(DX)の火蓋が切って落とされたタイミングだった。DXに乗せて、アジャイルを広げる。

 いや、違う。DX=組織変革と捉えるなら、アジャイルとはその前提であり、本質として組織に不可欠なものになる。私にとって、DXの伴走支援とは「仮説検証型アジャイル開発」を伝えともに実践することであり、組織活動にアジャイルを適用していく「組織アジャイル」の実践そのものであった。

 この三年、文字通り「精一杯」をに挑んだ。経過時間は三年だが、一般的なWorkStyle (1日=x時間)換算をした場合には、丸五年は投じているであろう。精神と時の部屋はリアルに存在するのだ。ただし、こうした働き方はお勧めするところではない。

 不確実性の高い領域に踏み込むにあたっての方針は決まっている。いつもの如く、持続可能性のブレーキを自ら壊して「時間を稼ぐ」。同じ単位時間でも、実践量を増やせばその分獲得できる経験も増大する。通常よりも三倍動けば、三倍の経験が得られる。早く経験値が得られれば、その分実践知として再投入が早くできる。このあたりは言わずもがな、アジャイルから教わったサバイブの術だ。何年経っても代わり映えしない。

 三年(五年)の経過とは、根本からふりかえり、むきなおりするには十分な時間だ。この間手をつけてこなかったナレッジの再整理、アップデートを手掛けた。このあたりは「書籍執筆」では満たされないところだ。書籍はあくまで、多くの人にとって手に取りやすく、有用であることが求められる。ここでいうナレッジの再整理には「わかりやすさ」は第一義として必要ではない。新たな知の地平が切り開けるかどうか、この一点だ。

 だから、アウトプットは人に読み聞かせするつもりが感じられない「荒さ」がありありと浮き出てくる。優しさのかけらもない。原木から荒々しく削り出した、何かの立像のように、ただそこにあるだけになる。

シン・正しいものを正しくつくる
組織をシンからアジャイルにする

 この二つの「シン」の中身について、ここで改めて触れるところはない。ただ目を通していただき、何かしらの感想がもらえたらそれだけで嬉しい。

 本意として思うのは、「そうそう」とか「これこれ」と思えること、それを他者とともにできることは僥倖なのだろうと思う。人と人とは、そう簡単にはわかりあえない。相応の時間をかけて、時を重ねていくことで、到達できるところがある。だからこそ、あることについて言葉を交わせられること自体がハッピーなのだと思うようになった。

 そんな「交流」がまた自分を突き動かしていく何かになるような気がした。これまでの三年はいわば一直線に自分の熱量と持てるものすべて(ケイパも時間も)をぶつけていく「直流」と言えた。この直流がもたらすものは、まさしく豆電球のような頼りない、それでいて力強い閃光のような「組織の変化」だった。その明かりが、また自分を突き動かし、導いてくれる存在になっていた。

 ただ、この先の頼りはきっと「交流」のほうになる。 いつまでも「精神と時の部屋」に籠城していても、次の越境を見出すことはできない。コロナが三年かけて収束したのに合わせて、そろそろ自分が自分で課した制約を破り、「部屋」を出るときなのだと思う。

 2022年の暮れにふらっと、一人で思い出の土地を訪れるということをやった。懐かしい風景の中を歩き回り、かつて幼子だった頃に遊んだことがある公園のベンチに座ったとき、不意に涙が溢れ出た。この二十年間に流した分を圧倒的に超えるくらいの量だった。なぜ自分がこれほどの涙を唐突に流すのか、まったくもって分からなかった。ただ、ひたすらに気持ちが良かった。長らく味わったことがない爽快感がそこにはあった。

 おそらく、「時」への感謝だったのだろうと思う。確かに、自分に流れた「時」とは実在する。どれほど消えかかった記憶になっていたとしても、想像でも妄想でもなく存在するのだ。自分が「時」を刻み続けて、今ここにたどり着けたこと自体が幸せなことなのだと思う。ましてやその「時」の中に、他の誰かがいて、自分と「時」をともにしてくれたということ。それは「まあ、そういうもんでしょ?」で片付ける対象などではない。自分にも、他者にも、「今ここにいる私」からは有り難く思う。

 この三年の「時」にも、私は感謝する。この三年があるから、その後の「時」が来る。また次の「今ここにいる自分」になれるよう、「時」を刻んでいきたい。ありがとう、また会えることを。

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