探索と深化をどう両立させるのか(「分割」と「重複」という2つの移行作戦)

 「深化」と「探索」、いずれをどのような組織で実現していくか。そもそも「DX」で掲げてきたのは「深化=既存事業、探索=新規事業」という構図であり、現在においてもこの理解に基づく組織編成が数多く存在しているだろう。

 一方、私自身は「深化=既存事業、探索=新規事業」を前提とは置いていない。既存事業であっても、探索の必要性は十分にある。むしろ、既存事業における新たな可能性を見出すために「探索」に乗り出す、そのための機会・ケイパビリティをどのようにして創出するか。現代組織の変革としてはここに焦点を置くべきではないかとさえ考えている。

 探索と深化を組織構造としてどのように実現するかには選択肢がある。「分割」「重複」である。

 「深化=既存事業、探索=新規事業」の方針では、前者の「分割」を採用し、既存事業で「探索」と「深化」の両面を扱う場合は、探索組織(チーム)、深化組織(チーム)は後者の「重複」がイメージされる。

 既存事業内において「分割」を選択する可能性はあるだろうか。もちろんありえるが、リソース面が課題だ。既存事業で人材が有り余っていて、探索と深化を組織的に二重化できるような状況は極めて稀だろう。探索側の人材を既存事業外に求めるとしたら、それはもはや「分割」だ。

 「分割」と「重複」では、利点も課題も異なる。まとめてみよう。

 「分割」とは、いわゆる「出島」体制であり、DXにおいて多くの場合採用される方針である。この出島特有の難題、探索と深化の間での分断をどう乗り越えるかは、DXにおける2周目で直面する。1周目の焦点はまず探索を成り立たせることだ。探索組織が立ち上がった2周目においては、探索と深化の両組織をどのように繋ぐか、どうすれば協働にシフトできるか、が山場になる。

 探索と深化が水と油ならば「繋ぐ」などは考えるべきではないのではないか? DXの狙いが「組織変革」であることに立ち戻ると、そういうわけにはいかない。ごく一部の組織が変革できた、ではなく、期待されるのはその成果を既存に広げることである。芽吹かせた新たなケイパビリティ、優位性をより広範囲の既存事業、既存組織に繋げることで成果をスケールさせる。探索と深化を「二項対立」させるのではなく、両者を相互活用できる「二項動態」のデザインが求められるのだ。このあたりは、書籍「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」で「アジャイルブリゲード」として示した。

 「重複」に関してはどうか。この方針は、ジョン・P・コッターが「実行する組織」で示した「デュアルシステム」に近い。デュアルシステムでは2つの組織構造を作り、一方を伝統的な階層型組織、もう一方をネットワーク型組織として、既存の構造では実現できなかったことにトライしていく。この両組織をどう成り立たせるかが焦点になる。

 そう、本稿のテーマに戻すと探索と深化の「割合」をどのようにバランスするかが難所であり、どうしてもそのコントロールが現場自身に求められることになる。最終的には個々人の裁量に委ねられることになる。逆に委ねられるようにしなければ、下手すれば倍に膨れ上がる仕事を個人として対処できず、逼迫しかねない。

 組織として行うべきことは、探索と深化の間におけるミッションとその評価、この配分のバランシングである。目先の業務量を調整するだけでは足りない。組織が置いているミッションレベルでバランシングしなければ、チームや個々人は2つの「果たさねばならぬこと」に別々に追い込まれることになる。

 このバランシングを深化側組織、探索側組織それぞれが一方的に行えるわけではないところに難しさがある。両者を超えたメタ的な組織が無ければ、深化と探索の間の調整はつけられない。このメタ的な存在もじゃあ置けば良いじゃないで済まないところに難しさがある。メタ組織を誰が管轄するか、誰がオーナーシップを取るかが問題になる。上層部、役員層にまで遡っても定められない可能性がある。誰がどんな権限でもって、組織としての探索と深化の割合を判断するのか? つまり既存の収益に関するリスク・犠牲は誰が責任を取るのか? につきあたる。最後は役員を新設するか、社長直轄が選択されるだろう。

 「分割」も「重複」も、簡単にはいかない。組織の「移行」は難しい。だからこそ、決め打ち、えいやで進めるべきでもない。「社運を賭けて」「いきなり全社移行」の前に、組織移行としての仮説検証、試行錯誤を先行させたい。

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