埋没した仮説を掘り出す「ずらしの価値探索」

 事業開発やプロダクト開発で、「自社のこれまでの強み」を活かして新たな価値作りをしたいという話はよくあるというか、たいていその前提で開発を行うことになる。そして、これが迷走を生み出す一因になる。

 「自社の強み」なるものが、思考の発想と選択に縛りを入れる。それがもちろん功を奏すこともある。強みが活きる案が生み出されることよりも、「縛り」によって考える領域、分量を減らすことができる。何でもかんでも可能性がありそうに思える、茫洋とした企画の初期段階において、方向感を与えることになる。「縛り」を味方につけられるかどうかは大きい。

 その一方で、強みなるもの(「手持ちの手段」)を次の事業・プロダクトの仮説に直接的に活かそうとしても、上手くいかないことが多い。解決対象とする課題が広がっていかない。

 手段の適用範囲が検討の前提となり、手段との結びつきがどうしても強くなる。もともとの狙いが明確な手段ほど、課題は広げにくい可能性がある(用途が明確)。いかにして、強みとの関連をもちながら課題仮説を広げられるだろか。

 以下の仮説作りを講じてみた。
(1) 手段が関係する問題領域をあげる
(2) 一旦、手持ちの手段を切り離して問題を選出する
(3) 課題解決の仮説を立てる
(4) 解決後に至る状態状況から、手持ち手段が活きる「次の課題」を構想する

(1) 手段が関係する問題領域をあげる

 いきなり「手持ち手段」を活かす流れではなく、「問題領域」に遡る。例えば、「手持ち手段」が金融系のサービスだったとする。このサービスが関連しうる領域をいくつか挙げてみる。資産管理、資産運用、老後に向けた資産作り、相続、健康、保険、学習…。手段が所属する問題領域の周辺を想像することになる。該当領域でよく話題になること、出てくる言葉を手がかりに抽象化し領域候補を洗い出す。相続→健康→保険と言った具合に連想も用いる。

(2) 一旦、手持ちの手段を切り離して問題を選出する

 問題領域の中で、扱う問題を挙げていく。この際、手持ちの手段とは切り離す。手持ちの手段で解決できるかどうかを問わない。ここが不安になるところだ。しっかりと握っていた手綱を離し、ある種の丸腰で問題の探索を行うことになる。時間を投じて何か得られるだろうか? ふわっとしてどこに辿り着けないのではないか? といった疑念が強くなる。「時間のムダ」議論は常に隣り合わせで出てきやすいので、先に時間枠を確保してしまってみんなの気持ちの後退を防ぐ。


(3) 課題解決の仮説を立てる

 選出した問題から解決対象の課題とその解決策を仮説立てる。このときの手段は「手持ちの手段」ではない(であっても良いが、問わない)。純粋に解決に必要なことに特化して考える。当然ながら、この課題解決に関するPSFが問われる。ある対象者にとっての価値になりうるのか、通常通り仮説キャンバスを用いて、「仮説の一本線」を見出す。ある課題が解決されることで、対象者の状態・状況が動く(変わる)ことになる。そのシチュエーションを活かすのが、この作戦の山場だ。ゆえに、この段階の課題解決自体には収益性を狙いとしない、重視しないという判断も取りうる。あくまで主眼は、次の項で示す、手持ち手段が活きる課題の創出なのだ。

(4) 解決後に至る状態状況から、手持ち手段が活きる「次の課題」を構想する

 前項の通り、対象者の状態状況が動くことで、新たな課題の創出が期待できる。ここで「手持ちの手段」の活用を検討する。先の金融サービスの例でいえば、問題領域を「健康」ととらえて、新たな課題解決を「遠方に住む両親の健康状態を手軽に把握できる」とする。ソリューションの中身は省くが、対象者(本人、子供側)が家族とのコミュニケーションパスを取り戻せると同時に、家族の健康・疾患状態が把握できることにより次の提案価値も講じることができる。課題解決に「手持ちの手段」の活用を織り込む(それは保険の提案かもしれないし、相続・資産管理へのガイドかもしれない)。

 (1)から(4)までを仮説として構造化立案する。1段階の課題解決で強みがいきるか、もしかしたら2段階の課題解決を要することもありえる。仮説を立てる上で、(1)から(4)を行きつ戻りつしながら、「価値」があって「現実的」、なおかつ「強み」が活きる構造を探索する。見えている範囲の状態状況をそのままでは、「手がかり」が見えてこない。「強み」の近いところで、小さな「変化」を作り出し、本丸となる提案価値やビジネスに繋げる。「ずらしの価値探索」は難易度は高いが、特別なやり方ではなくなってきているように感じている。

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