「型」「作戦」「運用」でチーム・組織づくりを行う

 その仕事が、プロジェクトなのか、プロダクト作りなのか、あるいは事業開発なのか。ジャンルを問わず共通して、持つべき観点が3つあると感じている。それは、「型」「作戦」「運用」の3つだ。

 型(かた)とは、整備されたナレッジであり、計画作りを行う際にリファレンスする対象にあたる。例えば、伝統的な組織には業務やプロジェクトを遂行するにあたっての「標準」が用意されているだろう。標準は当該組織で守るべき基準にあたる。あるいは、プロジェクトの知識体系としてPMBOKが存在する。アジャイルには、スクラムのフレームワークが存在する。型は無数に存在する。自分たちが取り組む仕事の性質、狙いにあわせて選び、活用する必要がある。

 作戦とは、ある目的目標を達成するための目論見のことである。型をもとに組み上げた具体的な「進め方」にあたる。達成したい目的、目標があり、それに向けてどのような方法でもって辿り着くのか。そこにどんなチームで臨むのか。到達までに待ち構える課題やリスクに対してはどう向き合うのか。つまり、作戦は個別性が高い中身になる。
 また、たいていの取り組みには期待する期限、時間軸が存在する。半年以内にプロダクトをローンチしたい、年度内にはプロジェクトを終えたいなどなど。ゆえに、作戦(進め方)を表現する手段として「スケジュール」が用いられることが多い。
 だが、スケジュールは厳密には作戦ではない。作戦はあくまで「仮説」である。物事を進めるための拠り所として作戦は存在し、かつ、その取り組み結果から学習を得てアップデートしていく対象になる。スケジュールが固定的で、単に守り抜くべき対象としてみなしている場合、それは作戦とは言い難い。

 運用とは、日々の営みそのものにあたる。プロジェクトの具体的な運営、事業運営におけるオペレーションなどなど。当然ながら、どう運営するかが設計されていなければ活動はちぐはぐになる。例えば、スクラムではスプリントを活動単位とし、その単位の長さを自分たちで決め、スクラムイベントの日程を設計する。こうした運営上の約束事がなければ当然ながらチームとしての動きが取れない。

 型、作戦、運用の例を以下に示しておこう。

型、作戦、運用の例

 こうした区別ができていないとどんな不都合があるだろうか。

 型が無ければ、作戦が立てづらい状況になる。よって、作戦自体が立てられていないか(!)、チーム参加者・関与者の勘と経験によって組み立てられることになる。繰り返し、繰り返し経験を得ている仕事であれば、むしろ勘と経験に基づく組み立ては効率的かつ効果的と言える。そうでなければ、的を得ない「えいやの作戦」でとにかく事に臨むという、イチかバチかになる。このケースは実際多い。

 作戦が無く、運用のみあるとしたら、それはルーチン化していると言える。実際、取り組むことがルーチンワークであれば良いのだが、システム開発や事業開発ではまず上手くいかない。このケースもよくある。ウォーターフォールであろうと、アジャイルであろうと、定められた(と信じ込んでいる)手順やルールをただただ適用したところで、結果は見えてこない。慣れないダンスのステップを無理やり踊ろうとして、ぎこちなく転倒するようなイメージだ。

 加えて、型無しのチーム、組織では、学習が十分に活きているとは言い難い。実践とは学びの最前線であり、そこには繰り返し利活用できるナレッジの発見もある。実践から学び得て、次の機会に役立つ工夫、習慣のことを「プラクティス」と呼ぶ。型とは、そうしたナレッジが集積され、磨き込まれたものと言える。
 もちろん、型通り、型にはめるというネガな言い回しがあるように、目的を見失わず、適用先との適合性を見極めて活用する必要がある。あわせて型の鮮度にも気を使いたい。時を超えて活用できる型もあれば、時とともに古くなるものもある。

型、作戦、運用のサイクル

 これまで様々な書籍で言及してきた、「ふりかえり」「むきなおり」「ものわかり」も、このサイクルにあてはめて理解することができる。ふりかえりは、運用上の課題を検出し適宜解決、改善していくための機会にあたる。むきなおりは、方向性の転換にあたり、運用結果を踏まえて作戦自体をアップデートする機会になる。ものわかりは、実践活動からナレッジを取り出し、意識的にプラクティスを見出すための機会である。

 「型」「作戦」「運用」といった具合に、あえて解像度をあげていくと、おそらく、
「自分のチームや組織では作戦があいまいになっているかもしれない」
「古い型しかなくて全く意味をなしていない」
「取り組むだけ取り組んで、型作りにあたるようなナレッジの整備まで手が回っていない」
といった課題が見えてくるのではないか。
 様々なチーム、組織を見てきているが、「型」「作戦」の弱さはもちろんこと、「運用」においても課題が顕在化しており、なおかつ手が打てていないという状況は珍しくない。弱点を見つけ、集団としての力を高めていくために、こうした概念はいきてくる。わざわざ、抽象的な概念を整理する利点はここにある。

 最後に一つだけ補足したい。型、作戦、運用の観点は、チームや組織がこれまでとは全く違う、新たな領域に踏み出すような場合(例えば新たなプロダクト作り、新規事業、探索プロジェクトなど)、適用のイメージが変わってくる。そのような場合は、まず型が定めにくい。「とにかくやってみる」という試行錯誤に寄ることになる。そして、取り組みを重ねた結果から、ようやく「作戦」(具体的な進め方)を立てることができる。
 このケースでは、最初から型作りや作戦立案に多大な時間を費やしてもムダになりやすい。ただし、「とにかくやってみる」だけが続いていくような状況は避けよう。結果から学びを得て、次の作戦を立てていく。そして、自分たちの型、スタイルを作っていく。この流れを忘れないようにはしよう。

Photo credit: fourbrickstall on Visualhunt.com

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