なぜ、われわれはOKRに期待を寄せようとするのか

 先日、親知らずを抜いた。その体験があまりにも鮮烈だったものだから、日常では得られない切り口を得た気分になった。歯を抜くということがどういうことなのか、事前に様々と調べあげた。自分の過去の類似経験、インターネットに転がっている情報、他の方の教え。そのいずれもが、実際に経験してみることとの間に大きなギャップがあった。当然と言えた。身の上に起きることなのだから、結局は感じ方なのだ。人によって違う。

 一方で得られた情報が間違いだったかというとそうでもない。ネットの情報は概ね正しかったと言える。おそらく、経験を得た私がその体験を書くとしたら、同じような内容の記事になるだろう。言っていることは正しい、しかし、感じ方、自分の評価は異なるという次第。

 この「言っていることの正しさ」とは何だろうか。客観的、一般的、外形的に言えること、それを表現するためにはやはり何かの基準が必要だ。私達の仕事においても、この「一般的な基準」なるものを頼りすることが多い。ビジネスを手掛ける、結果が出る、それを評価する。評価の際に、上々と言えるのか、期待はずれなのか、を判断するために何らかの物差しをあてる。

 目標値、KPI、こうした物差しがないと結果が出ても評価ができないし、結果を狙って何をするかのほうも定まらない。目標は大事。だが、この目標が単に数字しかない場合、私達は徐々に疲弊し始める。その目標達成の「意味」を自分たちで解釈するプロセスが抜けていると、何のために取り組んでいるのか分からなくなる

 やがて、意味は分からないが、とにかく達成に努めるという状況になっていく。何かが欠けている。その欠けていることに気づけないまま日々を重ねていくと、行き場の無い、謎の感情が占めるようになる。居心地の良い現場、職場とは言えなくなってくる。

 置き去りになっているのは、「起きたことへの感じ取り」だ。私達は感じ方という物差しをそれぞれ持っている。目標値、KPIでしか起きていることを測ることができない、わけではない。それにもかかわらず、「起きたことへの感じ取り」を軽視する、あるいは無いものとして扱うことが少なくない。結果、起きていることは客観的には良い、正しいが、もやみがつもりはじめる。言いたいことが言えなくなる。

 「正しいかどうか」だけではなく、意欲を感じられるか。楽しみ、喜びを感じられるか。より砕けていくと、ワクワク、ドキドキできるのか。結果に対して、自分たち自身に起きること、感情に目をむける。大事なのは、ワクドキ(WKDK)の大きさそのものを問う前に、自分たちの内面に目を向ける、その機会をまず設けることだ。始めるのは「欠けているもの」が何なのか、気づくところから。

 例えば「ふりかえり」では行動についての「カイゼン」にフォーカスがあたるだろう。そうした機会において、「行動の正しさ」を問う際に、「目標に対応する行動になっているか?」だけではなく、「自分たちの意欲に叶う行動になっているか?」も加えよう。目標には向いているが、意欲には向いていない、としたら。いっときではなく、その状況が続いてしまっているとしたら。一度、立ち止まり、落ち着いて向き合ったほうが良い。
 そう、「むきなおり」とは、明確なミッション、目標に向けた立ち止まりなのではない。むしろ、このままで良いのか?に気づくためには、「自分たちは何をしなければならないのか」というコミットメントだけではなく、「自分たちは何に意欲を感じるのか」という内面に起きることが手がかりになる

 一人仕事であれば良いが、チームで取り組んでいるならば、このWKDKが一体何なのか、言語化し、わかりあえるようにはしておきたい。この言語化に、例えば「OKR」を用いる。逆に言うと、もしOKRが、客観的な正しさに基づき作られているとしたら、それはKPIと変わらない。当然ながら、OKRという言葉ではなく、その中身が大事だ。WKDKするようなObjectivesになっているか。それは、誰かの独りよがりではなく、チームのWKDKになっているか。そこに向かっていく事自体に、意欲が感じられるか。

 「感じ取り方」とはあくまで人に由来する。人は、時とともに変わる。行動とその結果を重ねる中で、何に意欲を感じ、何を避けたいと思うようになるか、変わっていく。主体が変わっていくのだから、もちろん、感じ取り方の手がかりとなるOKRも変わることになる。

 そもそも、私達は自分の感情に向き合うことや、扱うことに慣れていない(だからこそ、客観的な物差ししかなくても文句一つ言わなくなる)。一度、「決めた」ことだとしても、「どうも違う」ということが起こる。そんなとき、どう向き合うか。「一度決めたことだから」で押し込むとしたら、その物差しは一体何のために手にしているのか。

Photo credit: Reiterlied on Visualhunt

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