コレクティブ・インパクトとアジャイル

 より難しいこととは、多様なステークホルダーの関わりを作り、それぞれの関心や利害を一致、調整しながら、共通のビジョンを実現させることだと考える。それは一人の力、一つの役割では実現しえないことであり、通常は結びつかないステークホルダー同士が互いの垣根を越えることではじめて実現しうることである。

 事業開発上は「共創」という言葉が好まれ、その理念を遠くに置いて目指すことがよくある。共創的な事業開発は先に述べたより複雑な課題の範疇に入る。ただし、規模の度合いはあれ、事業開発とはおおよそ共創的なものである(例えば、作り手同士、作り手と顧客、顧客と顧客など)ことを考えると、多様性に向き合うということは距離感の近い話でもある。

 事業開発だけではない。組織内の取り組み、施策も同様である。大きな言葉を使うなら「組織変革」に類する取り組みも、相当に複雑性が高い。組織の規模が大きくなればなるほど、一つの組織の中でありながらその関係する部署、役割、人の間で、利害を見出すことが難しくなる。部署間の利害は二項対立的になり、新しい施策、取り組みでは巻き込みにくくなる(例えば、これまでの部署目標と新たなミッション間の対立)。

 複雑な関係性を乗り越えて、その多様性をむしろ力に変えて、新たなビジョンを実現させる。本来事業や、組織が目指すものそのものであると再認識しつつも、その難易度は極めて高い。組織や事業の範疇が大きくになればなるほどに、職種の専門性や役割が細分化されそれぞれになればなるほどに、あるいはそもそも人の価値観自体が多様になっていくほどに。

 一方で、私達が本当のところ目指したいものとは、そうした新たなビジョンであるはずだ。ごく身近にある課題やニーズを捉えて、事業を作っていくことが「本当のところ」に値しない、というわけではない。ただ、私達が多大な時間や労力を費やして、少しでも動かしたい、変えたいものとは、これまでにはなかった可能性の実現という夢を見たいからではないか。大きく捉えればそれは社会のあり方を変えるということであり、私達の生活や日常に新たな価値を見出すということだ。

 「地域包括ケアシステム」とは、例えばそのうちの一つとしてみることができる。「地域包括ケアシステム」という言葉を聞き慣れない人が多いかもしれない。

地域包括ケアシステム(ちいきほうかつケアシステム)とは、高齢化社会に対応するために、日本の地域で行われている包括的な仕組みのことです。このシステムは、高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を送ることができるように、医療、介護、予防、住まい、生活支援などのサービスを統合的に提供することを目指しています。

具体的な特徴と要素は以下の通りです:

  1. 医療と介護の連携: 高齢者の健康管理と日常生活のサポートを一体化させるために、医療機関と介護施設が連携します。
  2. 多職種協働: 医師、看護師、介護職、リハビリテーション専門職、社会福祉士などが協力して、包括的なケアを提供します。
  3. 住まいの提供: 高齢者が安全で快適に暮らせる住環境を提供します。これには、サービス付き高齢者向け住宅やグループホームなどが含まれます。
  4. 生活支援サービス: 日常生活の支援や買い物、食事の準備、家事などのサービスが提供されます。
  5. 地域コミュニティの役割: 地域住民やボランティアも参加し、高齢者が地域社会とのつながりを持ちながら生活できるよう支援します。

このシステムは、高齢者の自立した生活を支えるだけでなく、介護負担の軽減や地域社会の連帯感を高めることを目的としています。日本全国で導入が進んでおり、地域ごとの特性に応じた取り組みが行われています。

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 私がこの取り組みに出会ったのは仕事の範疇で偶発的な理由に近い。一方で、自分の家族のことを考えると実に身近なテーマでもある(実際に当事者の一人である)。この内容は「あり方」の話である。これまでにはなかった構造を地域に作ることができるかが問われる。

 このあり方を実現していくにあたっては、コミュニケーションパスの構築やデータの共有など、ステークホルダーの垣根を越えていく必要があり、デジタルが果たす役割も大きい。この領域では、一つのプロダクトを作り上げること以上に、あるプロダクトが役割を果たすことで新たな構造に向けて動き出せるかに焦点があたる。

 もちろんのことながら、新たな構造を作っていく上で分かりやすい正解ルートがあるわけでも、思いつくタスクを積み上げれば期待する状況を作り出せるわけではない。何をどう繋げば構造化が進むのか、仮説を立てて検証を繰り返しながら見出すことになる。なおかつ、繰り返しだが、単一の組織や顧客を相手にするのではなく利害のことなるステークホルダーに一定のまとまりを作る必要がある。そこで、「コレクティブ・インパクト」というアプローチに期待が寄せられる。

コレクティブ・インパクト(Collective Impact)は、社会的な課題解決に取り組むためのフレームワークまたはアプローチの一つで、異なるセクターの組織や個人が共通の目標を持って協力し合うことを特徴とします。このアプローチは、単一の組織やセクターだけでは解決が難しい大きな社会問題に対して、効果的な対策を模索する際に用いられます。

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 コレクティブ・インパクトには5つの基本条件が存在する。

共通のアジェンダ: 参加者全員が社会問題に対する理解を共有し、それに対処するための共通のアプローチに合意します。
共有された測定基準: 進捗を追跡し評価するための共通の指標や測定方法について合意します。
相互の活動の補強: 異なる参加者が自らの役割を理解し、連携して行動します。
継続的なコミュニケーション: 信頼を築き、目標達成に向けて定期的に情報交換を行います。
活動を支えるバックボーン組織: コレクティブ・インパクトの取り組み全体を調整し、参加者間の連携をサポートする専門の組織やチームが存在します。

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 「コレクティブ・インパクト」は前提に近いと捉えている。この前提のもとで、利害を越えて方向性を見出し、活動としては仮説検証が必要になる。つまり、ビジョン(地域包括ケアシステム)に向けて、互いが関与し、動けるようになるための枠組みとしての「コレクティブ・インパクト」アプローチがあり、その実体となる活動には具体的なチームとしての動き方が求められる。

 そこで私が仮説として持つのが「アジャイル」である。「アジャイル」は探索と適応のためのチームとしての動き型にあたる。つまり、「アジャイル」は開発の文脈を越えて、多様なステークホルダーによるビジョンづくりを漸次的に進める役割としての期待が寄せられる。

 「コレクティブ・インパクト」と「アジャイル」。この両者を結びつけて、いかにビジョンを実現していくか。その手がかりを得ていきたいと思う。

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