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 「すみません、その時間帯は埋まっています」

 なかなか次のミーティングの日程の調整がつかない。10人近くが参加する会議である。特に、DX関連プロジェクトでは多種多様な立ち位置の参加者が圧倒的に増える。DX推進部門、事業部門、情報システム部門といった内部はもちろん、組織の外部の関係者の参画もある。全員の都合をあわせるとなると容易なことではない。会議の回数自体が増えているのだろう、メンバーの誰もが予定を会議で埋め尽くしているようだった。

テトリスのようなカレンダー、日程調整に何時間かけているのか

 新型コロナウイルス禍を皮切りに、ミーティングの場はオンラインへと移行した。あれほど必ず対面で行っていた会議が一斉にオンラインに切り替わった。コロナの状況によって、対面のリアル開催が多少戻ってくる時期もあるが、総じてミーティングの主体はオンラインに移ったと言って良いだろう。

 オンラインでミーティングなどはるか別世界の手段だったであろう大企業や歴史のある企業でも、難なく切り替えを得ている。おかげで筆者も東京まででかけて行く必要性が減った。自宅やプライベートなワーキングスペースから手軽に参加できる。多くの人にとってデジタル化のわかりやすい恩恵を感じられる出来事だったと言えよう。

社内外、異種混合の関係者が参画するDXプロジェクトのミーティング。効果的に運営するには?
社内外、異種混合の関係者が参画するDXプロジェクトのミーティング。効果的に運営するには?
(出所:123RF)
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 そう、われわれはかつてないほど気軽にミーティングコミュケーションを取れるようになった。その結果1日に実施するミーティングの数が圧倒的に増えた。会議と会議の間の移動の時間が不要となったおかげで、1日を会議で敷き詰められるようになった。カレンダーの予定を見ると、まるでパズルゲームのテトリスで、ブロックが消滅寸前まで埋まりきったようになっている。もちろんゲームと違って、現実の予定はいきなり消えたりはしない。

 そんな1日を振り返ると、日程調整に少なからずのやりとりと時間を費やしていることにも気づく。みなテトリスのようなカレンダーを抱えているのだ。アポイント調整が難しくなって当然だろう。こちらだって会議枠が潤沢に余っているわけではないから、日程調整のタイミングになるとちょっとしたプレッシャーすら感じる。明らかに限界が近く、どのミーティングをのぞいてもうっすらとした疲弊感が漂いがちだった。どうにもスマートとは言えなかった。

話し手より物言わぬ参加者の方が多い会議

 ミーティングのオンライン化がもたらしたのはテトリス問題だけではない。むしろ予定の詰め込みは分かりやすい現象であって、より本質的な問題が他にある。

 1つは、オンラインに移行したことで明らかに「余計なミーティング」が増えていることだ。会議に参加するハードルがぐっと下がった結果、「とりあえず参加しておく」あるいは「上司からの参加しておけ」が格段に増えたのだ。

 そういう参加者は、ミーティングでほとんど言葉を発することはない。得てしてWeb会議ツールのカメラもオンにしないため、どういう人物かも分からず名前だけが存在を表すことになる。ずらっと名前は並ぶが実際に話すのはそのうちの1人2人ということがある。

 参加しているだけの当事者にとっては生産的な話ではないが、主に話す側からしてもやりにくい。一応、名前が並んでいるので、合意形成の対象と見るべきかと意識もする(実際にはそうした気を回す必要はなかったりする)。

 合意形成の難しさはDXのプロジェクトでは格段に上がっている。新しいサービスの立ち上げや、組織初の取り組みなど、新規性が高いだけにそもそも明確なゴールを念頭に置けない場合も多い。仮説を立て、検証しながら進めていく、実験的なアプローチを取らざる得ない。先に述べたように参画する関係者も社内外多岐に渡るため、1つひとつの事案について合意形成を重ねていくこと自体が難しくなっている。

 その上、ミーティングの絶対数が増えた分、1つひとつの会議のアジェンダ設計も甘くなる。開催の狙いや目的があいまいで、何を目指して議論を進めて行けばよいか分からないまま迷子になる。もとより会議はアジェンダを設定して臨むのが基本のキであるが、オンラインに移行して以来、しまりがない会が目につくようになった。

 何を決めれば良いか分からないまま進むため、話を聞いていればどこかで論点が明確になるのかと、とにかく耳を傾けようとする。だが、そもそものアジェンダが無い会議でそうした姿勢はかえって逆効果だ。情報の共有に大半の時間を割いて、議論の余地、時間がほぼなくなってしまって、そのまま終わりを迎えるということが珍しくない。