市谷氏の自己紹介

市谷聡啓氏:では始めていきたいと思います。『組織を芯からアジャイルにする』という本が出るのですが、今日はこの本を題材にしたDevLOVEもやっていきたいと思います。

DevLOVEは、定かじゃないですが、たぶん三百何十回とやっています。(今日)初めてDevLOVEに参加された方は、Zoomのチャットで「いや、初めてですよ」みたいな感じのことを上げてもらえると、雰囲気がわかって良いので、ぜひ書いてもらえればなと思います。

今日のテーマを進めていきたいと思います。『組織を芯からアジャイルにする』の紹介をするということで、今日はインセプションデッキに載せてみなさんと共有していきたいなと思います。

ハッシュタグは、#devlove、もしくは#シンアジャイル、もしくは両方書いてもらえればと思います。ぜひツイートしてください。「最近あまりイベントのツイートを見かけないなぁ」という感じがあるので、ぜひ今日は昔を思い出して、Twitterにバンバン書いてもらえればと思います。

あらためて自己紹介をしますが、市谷と申します。ふだんはDXの名の下、いろいろな組織や事業の支援、後押し、テコ入れなどなどをやっています。なんだか参謀みたいな役割だなということで、暗躍をしている活動を主としています。

専門は仮説検証、アジャイル開発、組織アジャイルです。アジャイルに関する取り組みはアジャイルと共にあるということで、二十数年ぐらい活動をしています。

最近はいろいろな本を出していて、2022年2月に、『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』という赤い本も出しています。これはこれで変わったことを書いているので、よければ手に取ってもらえればと思います。

『組織を芯からアジャイルにする』執筆につながった課題意識

今日は7月21日に発刊する『組織を芯からアジャイルにする』をテーマにしていきたいと思います。いろいろな友だちが教えてくれるのですが、どうも紀伊國屋やジュンク堂で、一部先行発売しているようです。

(スライドを示して)こういう課題意識を持っています。先ほどDXの支援をしていると言いましたが、いろいろな組織を見ています。とてつもなく大きい組織や地方の企業、中小企業と、けっこういくつかの切り口でお邪魔しています。

そこで垣間見るのが、共通するモメンタム、共通する方向性、傾向みたいなもので、それは何かというと、“効率化への最適化”という動きです。

1980年代から日本で勝ち筋とされてきたであろう、「効率化を徹底的にやっていく」とか、「改善と洗練と深掘りなどを徹底的にやっていく」という判断基準に、体制や、スキルセット、動き方がチューニングされ尽くされているのが今の日本の組織なのじゃないかなと思っています。

それは別に悪いことではなくて、そういう観点は当然必要です。仕事は効率化していかないとグダグダになってどうしようもないので、やはり一定の効率化が必要です。

ただ、“効率への最適化”、さらには”最適化への最適化”みたいなことが始まり出すとちょっと止まりようがなくなってくる。(ここに)けっこう大きな問題があると思っています。

効率化を狙っていくと、要はいちいち迷わないようにするようになってきますね。迷わないようにするためにみなさんどうするかというと、選択肢を絞るということです。あらかじめ選択肢を絞っておくと、わざわざ試行錯誤しなくても済むことがあります。

それが“標準化”という言葉で表せるように、「こういう時はこういうことをしなさい」と決めてしまいます。「それ以外のことをやったらアウトだよ」みたいなことを言ってしまいます。すると、みんなそれに乗っかってやるしかないということになりますよね。

繰り返しですが、それはそれで必要なことです。ただ、これがいき過ぎると単なる思考停止になってしまうということです。

最適化をやりつつ、他の選択肢を探ることも必要

(スライドを示して)なので、本当は振り子のように動いていかなければいけないと思います。最適化をやっていく活動は必要です。一方で、最適化を選んだ瞬間に本当は他にもいろいろあった選択肢、可能性みたいなものを基本的には打ち捨ててやっていることになります。

先ほど言った選択肢を絞る活動、それを逆に「他の選択肢はどうなんだ」と言うと、「いや、置いてきました」という感じなわけです。

それで勝っていた時代があったんだと思います。しかし、このコロナの状況が一番わかりやすいですが、こういう状況の中で、仕事の進め方や使う道具から始まり、ビジネスのあり方そのものについて、我々は試行錯誤でやっている。それで、まざまざとわかったわけです。

今までやっていた業務や仕事の進め方はけっこういろいろな前提を置いていて、何か変わったことが起きたり、環境が変わったり、何かルールが変わったりしたら、けっこう身動きが取れないなというか、対応できないなということがわかってしまった。

なので、最適化をやりつつも、一方でオルタナティブな可能性、「他の選択肢は何があるんだっけ?」ということを探ったりする活動が同時に必要だし、組織にはこの両方が求められると言えると思います。

“組織アジャイル”という単語を使用した理由

探索する、他の選択肢を探しにいく活動にアジャイルというてがかりがあって、ソフトウェア開発は元よりそういったアジャイルを元に探索活動をやってきているわけですよね。

なので、こういったアジャイルのやり方や考え方を、組織の運営やソフトウェア開発以外の業務のところで適用していこうというのがこの本の趣旨であり、そこに“組織アジャイル”という名前を付けています。

Googleでググると、たぶん“アジャイル型組織”とか“アジャイル組織”と(いう単語が)出てきて、“組織アジャイル”と言っているやつは誰もいません。“アジャイル組織”のほうが一般的(な言いかた)です。なぜこの本で“アジャイル組織”、“アジャイル型組織”と言わなかったのかというと、(それとは)違うと思ったからです。

ググってみればわかりますが、ものすごくいいことがたくさん書いてあります。「アジャイル組織にはこういうことができて、自律分散型で」と、書いてあります。

そんなに急にできるのかという話なのですね。自律型、自己組織型と口で言うのはいいけれど、実際どうやってたどりつけるのかと。でも、どういう道筋で、どこからどこに向かってたどり着けるのかがインターネットに転がっていたら、苦労しないわけです。そんなものはないです。

正直言うとそこには段階があるし、(たどり着くためには)苦労していくと思います。苦労します。一夜を明けたら簡単にアジャイル組織になれるわけじゃない。

むしろその途中過程というか、アジャイル組織の完成形はきっとなくて、ずっとその過程をなぞり続けるのではないかと思うと、完成された言葉より、その過程を表す言葉のほうがいいなと思って、組織をアジャイルにする、“組織アジャイル”(という単語)を採用しています。

アジャイル・ハウスについて

アジャイルはけっこう歴史のある言葉です。一言で(アジャイルと)言っても「なんのアジャイルのことを言ってるのか?」ということになったりします。そのため、アジャイル・ハウス”という概念でまとめています。

(アジャイル・ハウスは)1階から3階まであります。1階がチームで仕事するためのアジャイルです。効率化を突き詰めていくと、サイロ化していくし、本当に極まっていくと他の人と絡まなくてよくて、自分の目の前の仕事さえやっていればいいみたいな方向感にきっとなるんでしょうね。

だから、「チームで仕事をするには、具体的にどうするの?」みたいな課題も組織によってはあったりします。なので、ここからやらなくてはいけません。ソフトウェア開発をやっている人からしたら、「え? そんなん本当にあるの?」と思われるかもしれないですが、実際にあります。

そのうえで、先ほど言った探索で、他の選択肢を探し回るわけです。そのためのアジャイルがあります。そして、3階に組織運営のためのアジャイルがあるという構造を描いています。

この1〜3階は、建物なので、基礎が大事ですよね。基礎として大事なのはアジャイルマインドの理解で、価値観や考え方がちゃんと根ざしているかどうかを同時に問うということなのです。

これもよく説明しますが、なぜ大事な価値観が地下(にある)かということです。「1階じゃないのか」と思われる方もいるかもしれません。

マインドの話は最初からやっていたほうがいいと思います。でもやはり、マインドの話は具体性がなかったりするんですよね。「協働が大事である」とか、「共創が大事である」ということで、大事なことをいっぱい教えてくれます。

しかし、具体的にどうしたらいいか、振る舞いはどうするのかというのがないと、マインドのありがたい話だけもらっても、次を始められないですよね。

なので、あえて基礎と1階で分けています。1階に置いている始めやすいもの、実際に取り組めることからまず始める。で、このやり方をもっとうまくやるために、地下に降りて「もっと上手くやるためには?」ということを学び直していくイメージを持っていて、こんな建物にしています。

アジャイルの回転を始めましょう

1階のアジャイルの要点は、「アジャイルの回転を始めましょう」です。

状況をよく見て、方向性を判断して計画作りをし、短い時間での実際の行動を取っていきます。計画だけ立てて終わりではなくて、ちゃんと実行動を伴います。

行動するからこそ結果が生まれるわけです。その結果から「この方向性じゃなかった」とか「ああ、このアウトプットはぜんぜんだめや」とか「もっとこうしたほうがいいやんか」とか、いろんなことがわかったり気づいたりして、次に何をするべきかという判断や、どうあるべきかという行動を磨くことができます。

こういうふうに次の判断や行動を適切にしていくことを、適応と呼びます。結果からの適応をして、また次の方向性判断に回っていくようなサイクルを回していくイメージが、アジャイルの取り組み方になるわけです。

そのうえで、探索と適応のためのアジャイルということで、この探索がなかなか大変です。(スライドを示して)いきなり難しくなるのですが、この本の姉妹書に『正しいものを正しくつくる』という青白い本があって、そちらで語っている内容です。

仮説検証型アジャイル開発。探索のところを仮説検証していく必要があるということで、アジャイルと仮説検証なる活動を組み合わせて、連動させて、アウトプットを作っていこうという考え方です。これはこれで重要なのですが、今日は詳細は割愛します。

そのうえ、組織の運営に適用するアジャイルがあるという話になります。それは先ほどお話したとおり、ソフトウェア開発で培われた探索と適応のすべを組織の運営に適用することです。これを”組織アジャイル”と呼び、主テーマとしているのが今回の書籍です。

(次回に続く)