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いきなりアジャイル型組織の運営方法を全面導入するのは簡単ではない。当初は、バックログやスプリント、ふりかえり、むきなおりから始める。その際にはデジタルツールを活用し、チーム運営を効率化するのが重要だ。

 ビジネス環境がめまぐるしく変化するなか、試行錯誤を重ねて経営ゴールに近づくアジャイル型組織への変革が重要になっている。新型コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻、急激な円安のようなビジネス環境の急変に合わせて、ゴールを柔軟に変更できる組織の体制と運営が求められている。

 ただし企業規模が大きくなればなるほどアジャイル型組織への変革が難しくなるのも事実だ。では、これからアジャイル型組織を目指す企業は、何から変革すればよいのか──。先行企業の取り組みと、組織変革のコンサルティングを手掛けるレッドジャーニーの市谷聡啓社長への取材を基に、アジャイル型組織へ変革するポイントを見ていく。

バックログを構築して定期的に確認

 市谷社長はアジャイル型組織への変革の第一歩は「部や課といった組織でプロダクトバックログを構築し、積み上げることだ」と説明する。

図 組織全体や部、課などでバックログの整合を担保
図 組織全体や部、課などでバックログの整合を担保
構造化した「バックログ」を構築する
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 バックログは組織がこなすやるべきことのリストである。業種や企業規模によっても異なり、事業部や部、課といった単位でも異なる。ポイントはバックログを「構造化」することだ。

 事業部や部という大きな単位であれば、そのバックログは抽象度の高いものとなる。一方、課やチームであればより具体的なバックログとなる。こうした粒度が異なることを踏まえて、バックログを各階層でつくる。そして、構造化されたバックログ間で内容の整合を取るようにする。

 「変革当初は、バックログに業務のデジタル化に関連する内容を記載するのが望ましい」と市谷社長は指摘する。具体的には「(チャットツールの)Slackを導入して活用する環境をつくる」といった内容で構わない。

 こうしたバックログを設定すれば、組織が変化に向かって進んでいるかどうかを把握できる。アジャイル型組織への変革を目指す際、組織が業務のデジタル化を目標としたバックログをこなせていれば、その組織は着実にデジタル化を進めていることになる。

 そしてスプリント(一定期間で繰り返す活動の単位)を設定する。スプリントの期間は部や課、グループなどで異なる。例えば事業部なら四半期に1度、部は1カ月に1度、課は2週間に1度といった具合だ。基本的には下位の組織ほど期間を短くする。この期間ごとに定期的に、バックログを評価して見直す。

 このように期間を区切ることで、単位時間当たりの変化を把握できる。例えば2週間でこなしたバックログの量から、その課が変化に向かってどれだけ挑戦できているのか、単位時間でどれだけ対応できたか、といったことが分かる。

 バックログは社員が誰でも見られるように可視化しておく。アジャイル型組織は、各チームに権限ややるべきことが分散されたフラットな構造だ。チームを統合したり、分割したりする際は、それぞれが抱えている業務量を把握する必要がある。