通算8冊目となる書籍「これからの仕事 これまでの仕事」を上梓した。
2022年に「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」と「組織を芯からアジャイルにする」の2冊を書き、書籍という形で何かを語るのは目一杯やりきった感じがあった。しばらくは、筆を置こう(本を書き終える度に毎回思っている)と今度こそ思ったが、芯アジャイルの後しばらくしてから、本書を書き始めている自分がいた。
きっかけは編集の傳さんとの会話だった。本作りって難しいですね、なんて話始める中で、どういう本が届けられると良いのだろうというお題の下、会話を重ねていった。
私には、書きすぎるきらいがある。あるテーマについて徹底して掘り下げて、実践で得たアレコレを整理し、まとめる。そのテーマは「不確実性の高い状況下でそれでもプロダクト作りを進めるには」とか、「伝統的で大きな組織で変革の狼煙をあげるには」といった具合で実に難易度が高い。だからこそ、書き尽くしたいと思う。「この領域で根こそぎ言語化をするのは、私だ」という気概で臨む。その分、どうしても本文も混み入ってくるところがある。
ある時、「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」を読んでくれた知人が、あきれ半分、おそれ半分といった具合で感想を寄せてくれた。まるで、自分が知ったことを後に残すために命がけで彫った石碑のようだ、と。筆圧の強さが、紙面から伝わってくる。その敬意を有り難く受け止めつつも、それ一辺倒でも上手くないなと思った。
私はあいまいで、ふんわりした内容の書籍があまり好みではなかった。余さず、書かれていて欲しいと思ってしまう。ひょっとしたら、通常の本屋より大学生協の書店に並ぶような本のほうを期待しているのかもしれない。しかし、方法論を詳細に述べるだけが「書籍でやりたいこと」ではない。
今はこうなっているが、これから先に向けては大事にしたいことがある。それにほんのり気がついている人達に向けては「励まし」となり、しっかりと受け止めるのはまだこれからという方には、ともに目指す「目印」となるような存在となること。それは、かつて、私が若い頃に読んだ数々の名著が果たしくれた役割だった。そういう本を送り出したい、と常に願うのは、私なりの「希望」への祈りでもあった。
だから、「これまでの仕事 これからの仕事」を書くとき、傳さんと話していたのは「これまでの組織の中で苦労してきた人」にはもちろんのこと、「これからの仕事に臨んでいく若手」にも届くものにしようということだった。 組織にある「これまで」の云々といった制約、なんじゃこりゃという習慣・前提。そういったビハインドを知らない、 “これからネイティブ” の皆さんに向けて。迷うことなかれ、と。
”これからネイティブ” の皆さんが、 「なんか変だな?」「どう考えてもこうしたほうが良いのでは?」という違和感を押し潰すことなく、 「新しいやり方発見!」「ほかのみんなと試してみよう」といったワクドキ感をそのままに、仕事に臨んでいけるように。「良い」と思ったことを、ごく自然なままやれるように。
そんな組織や現場ではない時間が長かったからこそ、そうありたいと思う。少なくとも、これから先においては。
つまり、翻ってこの本は、”これからネイティブ” を迎え入れる、先輩諸氏、上司の方、経営、組織のみなさんにこそ、読んでいただきたい。年齢を重ねてきた私たちが出来ることであり、やらねばならぬことは、昨日よりも今日1ミリでも状況をより良くすること。すべてを引っくり返せとは言えないし、出来ないかもしれない。それでもなお、組織が「これから」を作っていく一歩を踏み出すことができれば。やはりこの先には希望しかないと私は思う。